キケンデス ハナレテクダサイ

 人感センサーが働いたのか、機械が危険を何度も知らせる。山内くんに跨られ、不利な立場の剣崎先輩の方が、先に冷静さを取り戻す。

「なんもしてねえからまじで離せっ。微睡(まどろ)むどころか熟睡したあんな女、手ぇ出す気になんなかったから」

 けれどその発言は、火に油を注ぐだけ。

「ふざけんな!」

 憤慨した山内くんは、剣崎先輩を殴ったあともずっとグーのかたちのまま待機させていたそれを、顔の横で大きく引いた。
 周囲の悲鳴、電車の警笛。わたしが今耳にしているものは、あの日か今日のどちらの音だろう。

 ばいばい、胡都。

 秋宮くんの声が木霊する中、わたしは遮断機を潜り抜けた。

「ちょっと君っ!」

 知らぬ声が、ふたりの元へと走るわたしを止めようと叫ぶ。

「そうだ!緊急停止!」

 思い出したように、押されるボタン。無言で動画を撮り続けるのは、無慈悲な人たち。
 電車の車両が横目で見える。おそらく運転手は今頃焦り、ブレーキを目一杯かけることに尽力してくれているのだろう。

 わたしのせいで、ごめんなさい。

「山内くん!」

 駆け寄りながら呼んだ、彼の名前。先ほどよりもうんと近付いた距離で聞こえたわたしの声に、山内くんの拳が剣崎先輩の面前で止まる。

「こ、胡都っ」

 振り向き、わたしの姿が遮断機内側にあることに驚愕した様子の山内くんは、今の今まで大事に握っていた剣崎先輩の胸ぐらから手を離すと、急いで身を(ひるがえ)し、わたしへ向かって駆けてきた。

「なにやってんだよ胡都!危ないだろ!」

 パアアー!と光る、電車のライト。照らされるのは、山内くんの顔の右側。そしてそれは、わたしの顔左側も(しか)りだろう。

 山内くんを、殺さないで。

 確実に迫りくる大きな物体に、そう願っていた時だった。山内くんの身体が宙に舞い、そして落ちた。