せっかく山内くんが買ってくれたモンブランにほとんど口をつけず、涙を落としていると、食べないならくれと言わんばかりの顔をした鳩が二羽、足元で乞う。それを追い払う余裕もなく、ただ目にしていると、今一番耳にしたくない人の名前が聞こえて来た。
「剣崎ぃー。今日お前んち行っていいー?」
それは、踏み切りの側からだった。
「おー。いいけど」
「他誰か誘うー?」
「どっちでもー」
のんびりとしたその声に、虫唾が走る。昨日のせいでわたしは平常心でなどいられないのに、彼はちっとも気にせず、今日も平穏に過ごしていたのかと思ったら、下唇を噛んでいた。
数メートル先にいる剣崎先輩の存在を認識し、不快を覚えたのは、わたしだけではない。
「胡都、ちょっとごめん。席外す」
重低音で言い、立ち上がった山内くんの拳が腿の横で強く握られていて、嫌な予感がした。
「山内くん……?どこ行くの……?」
そう聞いても、彼はわたしを見ないし答えない。
「ねえ、山内くんってばっ」
一歩二歩、三歩目で制服の袖を捲った山内くんは、風を切る。
「剣崎ぃー。今日お前んち行っていいー?」
それは、踏み切りの側からだった。
「おー。いいけど」
「他誰か誘うー?」
「どっちでもー」
のんびりとしたその声に、虫唾が走る。昨日のせいでわたしは平常心でなどいられないのに、彼はちっとも気にせず、今日も平穏に過ごしていたのかと思ったら、下唇を噛んでいた。
数メートル先にいる剣崎先輩の存在を認識し、不快を覚えたのは、わたしだけではない。
「胡都、ちょっとごめん。席外す」
重低音で言い、立ち上がった山内くんの拳が腿の横で強く握られていて、嫌な予感がした。
「山内くん……?どこ行くの……?」
そう聞いても、彼はわたしを見ないし答えない。
「ねえ、山内くんってばっ」
一歩二歩、三歩目で制服の袖を捲った山内くんは、風を切る。