それから。喫茶店で意識を失ったわたしが次に目覚めたのは、剣崎先輩の自宅だった。彼の部屋のソファーで瞼を開けると、そこではもくもくとした煙が漂っていて、知らない男の人も三人ほどいて、ネットゲームをしていて。

「伊吹ちゃんがっつり寝すぎだよ、も〜」

 だなんて言われて、皆に笑われた。

 どうやってここへ辿り着いたのか記憶にもないことに震え、青ざめていると、そんなわたしを不憫に思ってくれたひとりが「早く帰してやれよ」と言い、剣崎先輩が駅まで送ってくれた。

「ばいばい、伊吹ちゃん。また遊ぼ」

 別れ際、呑気に振られた手に一礼すると、彼はすぐに猫背を見せた。ネイビーブルーの空の下、だらだらと気怠そうに家路を行く彼の後ろ姿が、闇へと消え行く犯罪者に思えてしまい、わたしはその場に(うずくま)った。

 ガチガチと、擦れる歯。その隙間から、精一杯懸念を葬る。

「なにもされてない、なにもされてないっ。だ、大丈夫……!」

 そうだよきっと寝てただけ。剣崎先輩とのデートに怯え、前日よく眠れなかったから、その疲れが出ただけだ。だから絶対に大丈夫。

 そう強く、自分へ言い聞かせていたけれど。

「胡都……?」

 つーっと伝った頬の涙が、昨日の不安をただの杞憂(きゆう)にさせてはくれない。

「胡都どうしたんだよっ、なんで泣いてんのっ。喫茶店のあと、あいつになんかされたのっ?」

 顔から血の気が引いていく。万が一を想像すれば、絶望した。