「残りちょうど二個だったよ。危なかった」

 翌日の放課後は約束通り、山内くんとモンブランを食べることになった。場所は線路沿いの公園で、眺められるのは電車と踏み切りを渡る生徒たち。

 俺が買ってくるから胡都は場所取り係ね、と、ガラ空きのベンチに必要もなさそうな係をわたしへ押し付け、コンビニへと駆けて行った山内くんは、ご主人様が投げたフリスビーを咥えた犬のように、すぐさま走って戻って来た。

「やっぱ人気なんだな、期間限定ものって」

 はいっと袋から出したスイーツとスプーンをわたしに手渡し、彼もベンチに腰をかける。受け取ったそのパッケージにはハロウィンのデザインが施されていて、まだ十月の頭なのに、とふと思う。

「ありがとう。えっと、お金」
「いいよいいよ。それより早く食べよ、溶けちゃう」

 急いで蓋を開けた山内くんに「アイスじゃないんだから」とツッコむと、彼は「間違えた」と笑っていた。わたしの笑顔が好きだと言ってくれた山内くんだけれど、わたしも彼の笑顔を見るのは好きだと思った。

「うん、美味い」

 わたしより先に頬張った山内くんは、うんうんと頷きながら、またひとくち運んでいた。驚いて、わたしは聞く。

「山内くん、食べられるの?」
「え、どゆ意味。めっちゃ食べてんじゃん」
「でも、それ甘いよね?」
「最近の俺の舌は、甘いものも受け入れられるように進化したのです」

 えっへんと胸を張る山内くんに、笑みが(こぼ)れる。彼が言い放ったその言葉が本当なのかどうかわからなかったけれど、ぱくぱくと食べ進める姿を見て、とりあえずは信じようと思った。
 わたしも茶色の山を削り、スプーンのつぼ一杯(すく)って食べる。

「うん、すっごく美味しいっ」

 唇に付いたクリームを指先で拭って微笑めば、山内くんの顔も綻んだ。けれどその顔が手元のモンブランに向けられると、彼はおもむろに口角の位置を戻して言う。

「剣崎となにしてたの、昨日」