「ここさ、俺のダチの店なんだ」

 そう言って、剣崎先輩に連れて来られたのは、高校から二駅離れた街にある喫茶店。レトロな造りが、昭和時代を思わせる。

「受験とかめんどくせーって言って。だったらじいちゃんの店で小遣い稼ぐわーとかって言って。中学卒業した途端に働き出してた」

 皮張りのソファーにべたりと背中をつけ、上機嫌で話す彼。「そうなんですね」と相槌を打つと、注文もしていないドリンクがふたつ運ばれてきた。

「剣崎、今日は可愛子ちゃん連れてんじゃん」

 コトンコトンと、それをテーブルへ置いた店員さんは、剣崎先輩と同じ(たぐい)のような人。ジャラジャラと金属製のアクセサリーをたくさん装備している彼は、飲食店で勤めるのに相応しくないと思った。

「おう。これ、後輩の伊吹ちゃん。(つかさ)の女より可愛いだろ」

 剣崎先輩に紹介されて、わたしはぺこりと頭を下げる。

 これ。

 まるで物のような言い草に、やはり彼にはわたしへの愛などないと知るけれど、だからと言って、帰れない。

 空になったトレーを小脇に挟み、「どうも〜」とわたしへ軽く笑みを見せた司という人は、その視線をすぐ剣崎先輩へと向けていた。

「俺の女って誰。サナのこと?」
「いや、名前とか覚えてねえけど」
「あんなんとっくに別れたよ。てか彼女じゃねえし」
「えー、お前それはひどいべ。ぜってえあっちは司にぞっこんだったぜ?」
「知らねー」

 ガハハと下品な笑いで会話が締め括られると、司という人が立ち去って、剣崎先輩とふたりきりになる。