それが床に落ちる音と、彼が発した一文字と。そのふたつが聞こえてしまえば、わたしは居た堪れなくなった。自分で作った状況ではないが、これは自分で招いた状況。それなのにこんな感情になるなんて、どうしようもない我儘だ。

「胡都っ」

 意を決し、剣崎先輩の元へ行こうとすると、みっちゃんの手が伸びてきた。

「本当にあいつと今日遊ぶの?危なくない?」

 わたしのブレザーの裾を掴んだみっちゃんは、そこをぐいと引っ張ってくる。

 遊びたくない、わたしだって本当は。
 けれどわたしは断れないから。

「大丈夫だよ、みっちゃん。剣崎先輩だって、べつに犯罪者じゃないんだから」

 と、貼り付けた笑顔で、彼女と自分自身を安心させるしかないんだ。

「そっか……」

 渋々離れていくみっちゃんの手。わたしはまたもや、彼女の差し出してくれた救いの手を自ら逃してしまった。

「気をつけてね」
「うんっ」

 再び足を動かせば、教室から出るまでには数秒もかからない。その僅かな時間で感じたこと。それは山内くんへの罪悪感。