「胡都」

 翌朝。高校最寄り駅の改札を抜けた先の柱へ寄りかかっていたひとつの人影が、わたしに気付いて背を剥がす。

「山内くん……」
「胡都、おはよ」
「お、おはよ」

 寝ぼすけなみっちゃんと、常に五分前行動をモットーとしているわたしは滅多に一緒に登校しない。だけど今日だけは、そんな彼女にお供してもらえばよかったと悔いた。

「や、山内くん。いつもより早くない?」

 ポケットに手を突っ込んで、てててとわたしの隣へ来た山内くんにそう聞くと、彼は間髪入れずに返してくる。

「だって胡都、メールの返事くれないんだもん。何通も送ったのにさっ」

 墓穴を掘った。間髪を入れないのは彼だけではない。わたしは朝から()を置かずに、二度目の後悔をした。

「ごめんっ。昨日はちょっと、バタバタしててっ」

 俯き、アスファルトへ向かって偽りを溢すが、それは山内くんが「嘘だ」と見破る。

「なんか隠してるんでしょ、胡都。昨日の先輩とのこと」

 てかあいつ誰、と聞かれ、「剣崎先輩」だと答える。すると山内くんもみっちゃん同様に、早速彼を呼び捨てにしていた。

「剣崎になに言われたの。なんか嫌なこと?」

 知り合いだとは、信じてくれなかった山内くん。ならば何なら信じてくれるだろうかと頭をフル回転させるが、ぽんこつな脳みそが生み出す言葉は「違う」って、ただそれだけ。