覚束(おぼつか)ない足取りのわたしを家まで送ってくれたみっちゃんは、玄関前でこう聞いた。

「山内には、なんて説明するの?」

 挨拶もせず、逃げるようにして帰ったわたしのことを、山内くんはどう思っただろうか。彼が抱いた気持ちをぼんやりと想像すれば、未来も(おぼろ)げに浮かんでくる。

「説明なんかしなくたって、こんなわたし、フラれるでしょ」

 こっちばっか胡都のこと想ってて、ばかみてえ。

 こうして相手を傷付けて、いつも終わりを迎えてきた。誰の誘いも断らず、誰にでも良い顔をして、誰彼構わずついて行くわたしの行動は、相手にとって不愉快に思うことが多々あるらしく、過去の人は皆、怪訝な顔でわたしの元を去っていった。

 だったら最初っからフってほしかったよ。

 その度に反省し、後悔したところで、わたしはまた同じ過ちを繰り返す。
 次こそは自分の意思を貫こう、ノーと言おうと固く誓っても、選択を迫られる場面になれば無意識に、首を縦に振っている。そしてまた、傷付ける。

 ならば人に好意など抱かれない最低最悪な人間にでもなってしまおうと思い、笑顔も感情もしまった時期もあったけれど、それはみっちゃんに泣きつかれてやめた。

 秋宮のことは、胡都のせいじゃないよ!

 彼女はそうやって、何度も何度もわたしを闇の底から救い出そうとしてくれているけれど、わたしは未だに深い谷底。彼女の手も光も届かぬその場所からずっと、這い出せないでいる。

 人間は命なんて、簡単に絶つ。

 あの時の秋宮くんが、飛び散った血液が、カラーで胸の真ん中に居座っている。周囲の悲鳴が、電車の警笛が、(うるさ)い雨音が、鼓膜にしがみ付いて離れない。

 片頬を指でなぞる。そこにはあの時感じた人間という生き物の、生温い体温が(しか)と残っていた。
 わたしが好意を受け入れなかったせいで消えた命の灯火(ともしび)。その十字架を、わたしは一生背負っていく。