何も言えないくせに、何も返す言葉なんて思いつかないくせに、肺が膨らんでは萎んで、また膨らんで。呼吸だけが、どんどん荒くなっていく。

「もういい加減やめようよ、胡都……」

 テーブルの上に乗せられていたわたしの両手をとり、みっちゃんは必死に訴えかけてくる。

「確かに秋宮の死は胡都にとって忘れられないよっ。最期の最期にあんなこと言われて、自分が殺したんだって思っちゃうのも仕方ないよっ。だけどもう、あれから一年半も経ってるんだよ?このままじゃ、胡都が前に進めないし、本当に好きな人ができても、その人を傷付けるだけだよっ」

 その瞬間、秋宮くんが脳裏で笑った。爽やかとは遼遠(りょうえん)かけ離れた、不敵な笑みだった。

「嫌なら嫌ってはっきり言わなきゃっ。付き合いたくないなら付き合いたくないって、拒否しなきゃっ。そもそも剣崎のやつ、山内と胡都が一緒にいるところにやって来たんでしょ?そんなのおかしいじゃんっ、胡都が彼氏持ちだって知ってて奪いにきてるじゃんっ。本当に胡都のことが好きだったら、こっちの気持ちを考えない強引なやり方しないはずだよっ」