「以上でご注文のお品お揃いですかあっ?それではどうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいませ〜っ」

 わたしたちが醸し出すどんよりとした空気とは裏腹に、決まり文句を快活に放つのは若い女性スタッフ。

「は〜い!ただ今おうかがい致しま〜す!」

 キャピキャピと楽しそうに仕事をこなす彼女には、生きがいという煌びやかなものが見てとれた。

「で、なんで剣崎に呼び出されたの」

 ここは地元のカフェ。今日の看板メニューも先日と変わらず『秋季限定サツマイモミルフィーユ』。今度こそはそれを食べてみたいと思うけれど、腕を組みご立腹なみっちゃんを前に食欲は湧かない。まあ、彼女のご機嫌にかかわらず、腹の虫など鳴かなかったかもしれないが。

「剣崎と胡都が、なんで知り合いなの」

 剣崎先輩のことをもう敵だと認定したみっちゃんは、彼の名前を教えた途端に嫌悪感たっぷり滲ませながら、呼び捨てにしていた。

「五月の体育祭の借り物競争で、わたし、先輩にハチマキを借りたみたい……」
「ハチマキぃ?」
「き、黄色のハチマキっ。その時は必死だったし、誰に借りたのかなんて覚えてなくってっ」

 唯一記憶にあるのは、そのハチマキの端に記されていたKEN(ケン)の文字。競技後、それを返そうと黄組ゾーンの席前を彷徨(うろつ)いていると、女子の先輩が話しかけてくれたから、彼女に託したんだ。

 ああ、これ剣崎のじゃん。

 もしかしたら、その時の彼女はそんなことを言っていたかもしれない。