根本(ねもと)っ。悪いけど先帰っててっ」

 真上から降ってきた声で、中学二年生の三月まで(さかのぼ)っていた意識が現実に引き戻される。

「山内くん、みっちゃん……」

 わたしの頭上、眉間に皺を寄せるのはみっちゃんで、山内くんは度々一緒に帰っている男友達に「じゃあな」と手を振ってから、わたしを見下ろした。

「胡都。あの先輩の用ってなんだったの。なに言われたの」

 山内くんから事情を聞いているのか、彼の隣でみっちゃんは、自身を抱きしめるようにしてこう言った。

「ちょっとなんでよ胡都、どうしてあんな柄の悪い先輩と知り合いなのよっ。まじであの人たち、裏でやばいことしてるって話だよっ?」

 俺、剣崎(けんざき)(ごう)。よろしくね、伊吹さん。

 屋上で交わした、先輩との握手。幾つかの指輪がはめられた、ごつごつしたその手は、握ったわたしの手を上下に何度か振っていた。

「し、知り合いの知り合いだったのっ」

 咄嗟に思いついた苦し紛れの言い訳は、誰が信じるわけでもなく、ふたりの機嫌を斜めに曲げた。