「た、大したことじゃないよっ」

 いくらか大きくなった声量。彼の口から飛び出るのは、数滴のコーヒー。

「大したことじゃない?でもわたし、山内くんが真剣な顔で秋宮くんのお墓に手を合わせてたところ見たもん」
「そ、それは、なんか秋宮に呼び止められた気がして……」
「え、秋宮くんが山内くんを?」
「も、もういいじゃん。その話はっ」

 そう言って、口を閉ざす山内くん。その後も何度か聞いてみたけれど、(がん)として教えてくれなくて、脇腹をくすぐってみても、拗ねる素振りをしてみても、それは一向に変わらなかった。

「あーあっ。気になるのになあっ」

 やむなく諦めたわたしは、ソファーの背もたれを深く沈ませて、カップを抱える。

「胡都」

 するとそのカップを奪った山内くんの顔が、わたしのご機嫌をうかがうように、真正面にやって来た。

「胡都、怒ってる?」
「怒ってはないけど」
「気になる?」
「うん、すっごく」

 少々口を尖らせて見せるが、山内くんはははっと軽やかに笑ってくる。そしてカップをテーブルに置き、わたしの手をとって。

「メリークリスマス、胡都。ずっと大好きだよ」

 だなんて話を変えてくるから、ずるいと思った。
 額と額をこつんと重ねて、照れながら微笑えみ合って。

「わたしも、ずっと大好き」

 そう告げれば、雪のように優しく降りてきたキス。山内くんとの二度目のキスは、甘い甘い味がした。