「山内くんは、お砂糖一個もいらないよね?」
台所でコポコポとふたつのカップにコーヒーを注ぎながらそう聞くと、「胡都と一緒で」と山内くんが返してくる。
「え、わたしと同じ分入れちゃっていいの?」
「うん、いいよ」
「じゃあ五個だ」
「え」
シュガートングで摘まんだ角砂糖を立て続けに入れていけば、彼はビターに笑っていた。
お待たせ、とローテーブルにそれを運び、ふたりで並んでソファーへ座る。この前ここへ来た時はそんな余裕がなかったのか、今日の山内くんは黒目を一周させ、部屋を見渡していた。
「伊吹家は、ものが少ないんだね」
「そう?」
「うん、少ない。俺んちなんて、『ザ・もの』しかないのに」
「あはは。でも山内くんちはうちよりひとり多い四人家族だったもんね。人数が多ければ、ものも増えるよ」
四人家族だった。そう言って、お姉さんが家族だったことを過去形にしてしまったことを悪く思う。
「あ、ごめん山内くん。わたし、今の言い方っ……」
湯気立つ丸い水面の中央を、儚げに見つめている山内くん。「あのさ、胡都」とその湯気が揺らめく。
「今度、姉貴のお墓参りに一緒に行かない?」
「お墓参り?」
「うん。姉貴に紹介したいんだ、胡都のこと。俺の大切な人だって」
台所でコポコポとふたつのカップにコーヒーを注ぎながらそう聞くと、「胡都と一緒で」と山内くんが返してくる。
「え、わたしと同じ分入れちゃっていいの?」
「うん、いいよ」
「じゃあ五個だ」
「え」
シュガートングで摘まんだ角砂糖を立て続けに入れていけば、彼はビターに笑っていた。
お待たせ、とローテーブルにそれを運び、ふたりで並んでソファーへ座る。この前ここへ来た時はそんな余裕がなかったのか、今日の山内くんは黒目を一周させ、部屋を見渡していた。
「伊吹家は、ものが少ないんだね」
「そう?」
「うん、少ない。俺んちなんて、『ザ・もの』しかないのに」
「あはは。でも山内くんちはうちよりひとり多い四人家族だったもんね。人数が多ければ、ものも増えるよ」
四人家族だった。そう言って、お姉さんが家族だったことを過去形にしてしまったことを悪く思う。
「あ、ごめん山内くん。わたし、今の言い方っ……」
湯気立つ丸い水面の中央を、儚げに見つめている山内くん。「あのさ、胡都」とその湯気が揺らめく。
「今度、姉貴のお墓参りに一緒に行かない?」
「お墓参り?」
「うん。姉貴に紹介したいんだ、胡都のこと。俺の大切な人だって」