「山内くん、まだかな」

 お客様用のクッキーを用意して、コーヒーと砂糖の準備もした。時刻は十三時を回ったところ。昼食後に来ると言った山内くんだけれど、きちんと時間を決めておけばよかったと思った。

「ああ、ドキドキする」

 ぽんっとソファーに身を預け、クッションを抱きしめる。山内くんがわたしの家を訪れるのは初めてではない。だけど、彼の怪我の手当てをするために招いたあの日と今日とではわけが違う。しかもつい先ほど、わたしたちは恋人同士になったばかりだ。

「う〜!」

 クッションに思いきり顔を埋めて、溢れんばかりの気持ちを声で逃す。

 好き、好き、大好きだよ山内くん。わたしを好きになってくれて、ありがとう。

 ぽーっとひとり火照っていれば、インターホンが鳴った。

「は、はーい!」

 絶対に山内くんだろうとは思うけれど、念のため、カメラに映った画像に呼びかける。

「山内くん?」

 しかしそこに彼の人影はなく、近隣の一軒家や裸の木々が静止画で映るだけ。

「間違えちゃったのかな」

 近所に用事のある誰かが表札を誤認し、インターホンを押し間違えてしまったのだと画面を暗くしようとした時だった。