「俺も、ごめんっ」

 彼女の髪から香るフローラルに、全身が疼く。

「口下手で、胡都を安心させるような台詞も言えなくって、ただただ不安にさせてっ。あんな寒い場所にひとりで座ってた胡都を見たらなんかもう、早く帰らせてあげたくなってっ」

 恋のアドバイスをしてくれる姉貴は、もういない。だからこれからは、自分で選択をせねばならない連続なのに。

「胡都を前にするといっつも空回りしちゃうんだ、俺」

 思えば初めからそうだった。タイミングも見計らわずに始業式をサボらせて、無理に気持ちを押し付けた。
 本当は、もっと大切にしたいんだ。胡都の思いも笑顔も、もちろん俺よりか弱いその身体だって。過去も今も未来も全て、胡都にまつわるものは大事にしたい。

「好きだよ、胡都……」

 三度目の正直は、不恰好な寝姿で君にした。

「俺は胡都が大好き。これからはもっと上手にやるから、胡都を笑顔にできるよう頑張るからっ。だから俺と、付き合ってくれないかな……」

 けれど今までで、君とは一番近い距離だった。

 胡都へ回していた手をおもむろに緩めると、彼女と間近で目が合った。彼女の答えを待つ間は、時計の秒針の音だけが響く。

「山内くん」

 吐息がかかり、ドキッとする。赤らんだ胡都の顔が可愛くて、一生だって見ていたいと思った。

「わたしも、山内くんが好き」

 その返事に心底喜ぶと同時に、俺は彼女にキスをする。スイーツ好きな彼女と重ねる初めての唇は、互いが涙しているせいで少ししょっぱい。でも、それもなんだか嬉しかった。ふたりで共有できるのは、甘い味だけじゃないんだって。

 (とろ)けてしまいそうなほどの至福を感じていた。彼女の愛に、俺は溶けていった。
 愛してるよ、胡都。俺を好きになってくれて、ありがとう。