「ひとりで帰る」

 すくっとベンチから立ち上がった胡都は、俺の顔を見ずに歩き出す。

「え、ちょっと待ってよ胡都っ。送るってば」
「山内くんなんかと一緒に帰りたくない!」

 ズキンズキンと喚いていた俺の心臓が、その瞬間に止まった気がした。
 ずんずん進む彼女を追えと、脳は指令を下すけれど、一時停止した心臓では身体へ血液が上手く循環せず、俺の足は一歩として歩めなくなった。

「胡都……」

『胡』と『都』。ふたつの白い吐息を風が攫う。夜空の高いところでは、そりに大量のプレゼントを積んだサンタが、準備をしている頃だろうか。
 赤い服を纏った彼に、これがほしいあれがほしいとお願いできるのは、子供だけだと知っている。けれど俺もまだ未成年。だからだめもとで願ってみる。

「サンタさん、胡都をください……」

 俺は、胡都が好きだ。だから俺は、彼女の──

「俺は胡都の、気持ちがほしいです……」

 呟けば、また情けない涙が一筋伝って、頬を濡らした。