そう言われて、ズキンと心が悲鳴を上げた。ズキンズキンと何度でも、鼓動の度に痛みが伴う。

「山内くんとデートできるって楽しみにしてたのは、わたしだけだったんだねっ。今日はわたしたちにとって特別なクリスマスイブになるって、そう思ってたのはわたしだけだったんだねっ」

 うう、と両手で顔を覆い隠し、咽び泣く彼女。悲しむ彼女の髪に触れ、愛でることさえも、俺はしてはいけない人間に成り下がっただろう。

「俺も、」

 俺も楽しみにしてたんだ。そう言おうとして、すぐやめた。びゅうと冷たい風が吹く。胡都に風邪を引かせたくはない。

「帰ろうか、胡都。家まで送るから」

 その瞬間、目を広げた胡都の顔が上を向く。

「か、帰る……?」
「うん、もう寒いし帰ろうよ。このままじゃ、体調崩す」

 これだけ待ち合わせに遅れたくせに、詳しい説明もなく帰りを促す。胡都のその、信じ難いものを見ているような目には、俺はどう映っているのだろう。おそらく化け物か極悪人か、その辺かもしれない。