約束したカフェで待ってるから、何時になってもいいから、だから来て。

 本当に彼女を大切に想うのならば、あの時横に首を振ればよかった。電車が動いていないとわかった時点で、自転車で一時間もかかると知った時点で、遅くとも空の茜色を目にした時点で。「ごめん胡都、今日は先に帰ってて」と、言えばよかったんだ。それで嫌われたとしても、彼女にこんな辛い思いをさせるより、よっぽどマシじゃないか。

 募る後悔に苛まれていると、胸元からか細い声が聞こえてくる。

「みっちゃんのとこ、行ってたんでしょ……?」

 それに対しての弁解は、まだ思いついていない。だから俺は何も返せなかった。黙るだけの俺に、胡都は続ける。

「そっか……うん、わかってたけどさ。やっぱショック大きいや」

 へへっと無理して笑う胡都を、胸から剥がす。勇気を出して彼女を見ると、彼女はうさぎのような目で泣いていた。真っ赤な双眸から察するに、これは今日初めて流した涙ではないだろう。

「ひとりで期待しちゃって、ばかみたい……」