「いらっしゃいませー」

 目的地へ到着する頃にはすっかり陽が沈み、空では星たちが瞬き出す。手がキンキンに悴んでいる。日中は過ごしやすい陽気でしょう、の今朝の天気予報士の言葉によって、今日の俺は手袋をしていない。

「あの、待ち合わせなんですけどっ。高校生の、女の子のっ」

 席へ案内しようと俺に近寄ってきた女性店員へそう告げると、彼女は軽く下げた頭と共に謝罪をしてきた。

「申し訳ございませんお客様。お連れ様ならすでにもう、お帰りになられていますが」
「え」
「一時間半ほど前にはなるかと存じます」

 胡都のいない店を出て、すぐにタップするのは彼女のアイコン。

「山内くん」

 俺なんかの電話に出てくれたことにほっとして、聞くのは居場所。

「胡都、今どこにいるのっ?遅くなってごめんっ!」

 一文字一文字吐くたびに、ひとつひとつ出るのは白い息。昼間と真逆に凍てつく夜。鋭利な風が、頬を刺す。

「公園」

 だからその言葉を聞いた時、俺はどん底に叩き落とされた気分になったんだ。

「山内くんとモンブランを食べた、線路沿いの公園にいるよ」

 こんな地獄のような環境で、胡都をひとりにさせてしまったことに絶望した。