「もしもし、山内……」

 普段の彼女とはかけ離れた、まるで幽霊でも演じているかのような声だった。ピリリ、背筋が凍りつく。嫌に静かな向こう側に、血の気が引く。

「み、美智今どこっ。俺今、ショッピングモールの前!」

 大きな四角い箱を見上げ、その中に向かって呼びかける。しかし美智はそこにいなかった。

「駅前の、キャピタルエスっていうホテルにいるの。部屋に入った途端、全部の荷物おじさんに金庫入れられちゃって、今なんとか解除できたとこ……」

『女子高生をホテルで殺害。出会いはネットか』

 父親の渋い顔が、目の前に浮かび上がる。

「どうしよう、山内……」

 そして、胡都が涙する姿も同時に。

「『俺がシャワー浴びてる間に逃げたら学校にバラす』って言われて動けないっ。こんなこと言う人じゃなかったのに、良い人だと思ってたのにっ」

 道行く人は皆、聖なるこの日に身を躍らせ、心ときめかせている。

「助けて山内、助けて……」

 それなのにどうして俺も胡都も、美智も武藤くんも、人々と同じ気持ちになれないのか。

「安心しろ、すぐ行く。何号室」
「ご、五〇三」
「オーケー。扉にバレないようになにか挟んで待ってろ」

 だけどそんな『今』だって、輝く『明日』に繋がる糧だって、そう思うことにする。そうじゃないと誰だって、死にたくなってしまうから。