ロードバイクは他の自転車に比べて速い方だ。けれどショッピングモールがある街までは、一時間を要した。まだ買い物をしててくれと願いながら、美智に電話をかける。

「なんだよもう、出ろよ……」

 路肩に停めたロードバイクの横で、俺は頭を抱えていた。何度鳴らせど繋がらぬ美智に、最悪な事態を考えてしまう。

「美智、頼むから出ろっ……」

 人間の命なんて、簡単に失われてしまう。それを知ったのは姉貴の死だ。

 この前婚約指輪くれたから、来週ここに挨拶しに来る。

 命日となるその日の朝、姉貴はそう言った。彼女の人生にはあたり前のように『来週』があり『未来』があったけれど、それは儚く散った。
『今』が幾重にも重なって、それが『明日』へ繋がっていく。どの『瞬間』が欠けてしまっても、俺等に『未来』は訪れない。
 だから美智、自分のことはもっと大切にしなきゃ。

 ただ今電話に出ることができません、という機械アナウンスで、再三に渡り途切れる呼び出し音。何十回目かのリトライで、ようやく美智は出た。