「え、電車動いてねえの?」

 風を切り、息も切らせて高校最寄り駅まで来たというのに、何と改札手前には『運転再開未定』の看板が平気な顔をして立っている。

「まじかよ……」

 帰路を断たれ、行き場を失った生徒たちでごった返す駅付近。皆が俯きスマートフォンで暇を潰す中、きょろきょろと辺りを見渡すひとりの男と目が合った。俺は駆け寄る。

「武藤くんっ」

 武藤くんの側で停車するロードバイク。これなら間に合うかもしれないと思ったから。

「武藤くん、悪いけどこれ貸し──」
「山内くん。伊吹さんってまだ、クラスに残ってました?」

 貸してほしいと頼む前に、武藤くんの口から出てきた胡都の名前。「え?」と聞き返す俺に、彼は続ける。

「みっちゃんさんに渡したいものがあったんですけど、みっちゃんさん今日学校に来なかったから、彼女と仲の良い伊吹さんに託そうと思ってずっと待ってるんですけど、全然来なくて。こんなことなら教室で渡せばよかったです。ちょっと人目気にしちゃいました」

 今日は駅の方が人多かったですし、と自嘲気味に笑う彼に、「明日でいいじゃん」と俺は言う。

「明日の終業式のあとは、図書委員の仕事があってすぐ図書室に行かないといけないんです。だから時間がなくて」

 まだですかねえ、と再び辺りを見渡す武藤くん。俺は呑気に会話をしている場合じゃないと気付く。