「わ、胡都っ。そんなとこでなにやってっ」

 しゃがみ込んでいた彼女は、俺のブレザーのポケットを訝しげに見つめながら言う。

「山内くんこそ、ベランダでなにしてたの。今日は一緒にクリスマスケーキ食べに行く約束だよね。早く行こうよ……」

 震えた声。捨てられた犬のように元気がない胡都を前に、言い訳なんて嘘なんて、考えられなくなった。

「ごめん胡都。俺、今日行けない」

 俺が言えるのは、ただこれだけ。美智が胡都に秘密にしていることを俺は言えないし、言おうとも思わない。何故ならきっと、胡都が心配してしまうから。
 けれどその選択は間違えだったのかもしれないと感じたのは、次の瞬間だ。

「嫌だっ!」

 彼女は声を荒げた。

「なんで行けないの!?なんの予定が入ったの!?でもわたしの方が約束先じゃん!それを断るのはおかしいじゃん!」

 そうだよ、俺の今日の予定は胡都だ。愛する彼女へ想いを伝える特別な日に、俺はどうして、他の女の元へ行こうとしている?

 混乱する頭の中。けれど昨夜の新聞記事がそこを過ぎれば、俺は再び謝罪を口にしていた。