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「エレベータに閉じ込められた日さ、わたしに色々買ってくれたおじさんいるじゃん」
「ああ、ネットで知り合ったっていう」
「そうそう。そのおじさんにね、今度展望台連れてってって強請(ねだ)ったら、クリスマスイブにホテルの最上階の景色見せてあげるって言われて、ビップな部屋予約してくれたんだ」

 俺の隣の席へわざわざ腰を下ろし喋るのは、他者には聞かれないようにするためなのだろうけれど、声量がいつもと同じでは、意味がない。

「はあ?ホテル?そのおじさんと一晩過ごすってこと?」
「ばか。そんなんだったら下心ありありじゃん。断るよ。昼間って言ってたー」
「どっちがばかだよ。真っ昼間でも下心あるかもだろ。そんなんやめとけ」
「えー。でもたまには見下ろしたいじゃん、東京の街を。それにあのおじさん、けっこう良い人だし」

 本性も素性も知らずに、目に見えたものだけを信じる。こんなことを続けていれば、美智はいつか痛い目にあうだろうと俺は思った。
 美智が傷付くことがあれば、胡都は悲しむ。ようやく前へ進めそうな彼女なのに、また泣いてはほしくない。

「イブって確か、まだ学校あるんじゃね?」
「うん、あるよ」
「てことは、学校サボってまでそいつとホテル行くの?良いおじさんって言ったって、そいつもただの男だぞ」
「大丈夫だって、展望台気分味わいながらちょっとルームサービスでも頼んだら、すぐ帰るから」
「だからさあ、それはやめろって美智」
「ええ、なんでよ。やっぱ心配してくれてんの?」
「いや、そうじゃないけど」
「心配しろし」
「でもお前が、クリスマスイブにあの男と会うのは嫌だ」

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