その刹那、頭のてっぺんがぐらりと揺れた。とても申し訳なさそうな、切なそうな声なのに、刃物を突きつけられた気分になった。
なあ胡都。イブって空いてる?
そう言って誘ってくれたのは、山内くんの方なのに。
胡都に悲しい思いさせちゃったから。だからそのリベンジがしたくて。
わたしもリベンジがしたいって、そう思っていたのに。
俺も超、楽しみにしてるっ。
山内くんは、嘘つきだ。
「嫌だっ!」
自分でもびっくりするくらい、子供じみた言い方だった。
「なんで行けないの!?なんの予定が入ったの!?でもわたしの方が約束先じゃん!それを断るのはおかしいじゃん!」
勢いのままに頭を上げ、山内くんを見ると、そこには戸惑いと悲痛と、もう言葉では言い表せないほど『いっぱい』を抱えた顔があった。
「胡都、本当にごめんっ。でも俺、もう行かなくちゃ」
「行かないで!」
「胡都……」
ちらっと壁時計に目をやる山内くん。そんなにも急いでみっちゃんの元へ行きたいのかと思うと、胸が苦しく締めつけられた。
「行かないでよお……」
ぽたんと床へ落ちるのは、涙一粒。せっかく上げた頭が徐々に垂れて、わたしはそれを抱えるようにして蹲った。
「胡都、ごめん」
こんなに駄々をこねて見せても、山内くんは謝るだけ。
「本当に、ごめんなさい」
トンっと歩き出す音が聞こえた。コートを羽織る音、鞄を取る音、肩にかける音。そしてまた、廊下へ進む上履きの音。
置いてけぼりというのは、こんなにも惨めなのだと思い知る。
「じゃあ、待ってるからっ」
自分で遮断した回りの光。闇の世界に呟いた。
「約束したカフェで待ってるから、何時になってもいいから、だから来て」
こんな細やかな声で望みを吐き出したところで、もう山内くんの耳には届かないだろうと思ったけれど、遠ざかる上履きの音が一時止んで、代わりに彼の声がした。
「わかった、必ず行く」
けれど結局夜になり、わたしはひとりで店を出た。
なあ胡都。イブって空いてる?
そう言って誘ってくれたのは、山内くんの方なのに。
胡都に悲しい思いさせちゃったから。だからそのリベンジがしたくて。
わたしもリベンジがしたいって、そう思っていたのに。
俺も超、楽しみにしてるっ。
山内くんは、嘘つきだ。
「嫌だっ!」
自分でもびっくりするくらい、子供じみた言い方だった。
「なんで行けないの!?なんの予定が入ったの!?でもわたしの方が約束先じゃん!それを断るのはおかしいじゃん!」
勢いのままに頭を上げ、山内くんを見ると、そこには戸惑いと悲痛と、もう言葉では言い表せないほど『いっぱい』を抱えた顔があった。
「胡都、本当にごめんっ。でも俺、もう行かなくちゃ」
「行かないで!」
「胡都……」
ちらっと壁時計に目をやる山内くん。そんなにも急いでみっちゃんの元へ行きたいのかと思うと、胸が苦しく締めつけられた。
「行かないでよお……」
ぽたんと床へ落ちるのは、涙一粒。せっかく上げた頭が徐々に垂れて、わたしはそれを抱えるようにして蹲った。
「胡都、ごめん」
こんなに駄々をこねて見せても、山内くんは謝るだけ。
「本当に、ごめんなさい」
トンっと歩き出す音が聞こえた。コートを羽織る音、鞄を取る音、肩にかける音。そしてまた、廊下へ進む上履きの音。
置いてけぼりというのは、こんなにも惨めなのだと思い知る。
「じゃあ、待ってるからっ」
自分で遮断した回りの光。闇の世界に呟いた。
「約束したカフェで待ってるから、何時になってもいいから、だから来て」
こんな細やかな声で望みを吐き出したところで、もう山内くんの耳には届かないだろうと思ったけれど、遠ざかる上履きの音が一時止んで、代わりに彼の声がした。
「わかった、必ず行く」
けれど結局夜になり、わたしはひとりで店を出た。