みっちゃんが登校しないまま、鳴った放課後のチャイム。彼女には明日の終業式で、「昨日どうしたの?」と聞いてみようと思った。

「ねえ根本くん。山内くんどこ行ったか知らない?」

 今日は山内くんと、クリスマスケーキを食べに行く日。それなのに帰りの支度をしている間に、彼の姿が忽然と消えた。

「あれ?さっきまでいたはずなんだけど」

 山内くんの居場所を根本くんに問うが、彼も突然失踪した山内くんの足取りを、知らない様子だった。

「鞄はまだ机にあるから、トイレじゃね?待ってれば戻ってくるよ」
「そっか、それもそうだね」
「じゃ、またな」
「うん、ばいばい」

 そんなやり取りをして自席に着き、クラスメイトが着々と減っていく教室で過ごしていると。

「そんなのもう、どうでもいいじゃんか!」

 と、物々しい山内くんの声が、ベランダの前方から聞こえてきた。
 音を立てぬように、そっと立つ。クノイチのように移動し、黒板の隅に身を置いて、耳をそばだてた。

「美智、まじでやめとけって。今すぐ帰って来いってばっ」

 美智。その名前が耳へ届けば、寒気がした。今日みっちゃんが学校へ来なかった理由を、山内くんは知っている。ゆっぴーの電話には出なかったのに、山内くんの着信だけはとったのか。
 鬱積(うっせき)していく身体の真ん中。そこへ長いこと口内で溜めていたような、唾の塊が落ちていく。

「どこいんの。べつにいいじゃんか教えてくれても。まじで、頼むから教えて。お願い美智」

 うん、うん、と板越しのみっちゃんに相槌を打った山内くんは、次の瞬間、驚くべきことを口にした。

「じゃあ今から俺、そっち行くわ」