「それも甘そうだね」

 まろやかな甘さのスイートココア

 そんな文言が目を引くパッケージ。わたしも山内くんを真似て成分を確認してみると、その先頭に、砂糖の文字があった。
 山内くんは、こんなの絶対飲まないだろうな、と思っていたその時。

「ちょっと、ひとくちちょうだいよ」

 拳ひとつ分の距離を詰めた彼が、手を伸ばす。

「えっ」

 有無を言わせず奪われる、ココアの缶。山内くんの唇が飲み口にそっと触れて、喉仏が一度動いて、再びそっと離れていく。人がドリンクを飲む横顔を、こんなにもまじまじ見つめたのは初めてだ。

「うん、超あっま」

 ビターな笑みと共に缶を返却してきた山内くんは、まるで口直しでもするかのように、すぐにブラックの液体を喉へ通す。
 山内くんから受け取った缶、彼が飲んだ缶。(もも)の上で抱えたそれに目を落とし固まっていると、こめかみに何かが触れた。

「胡都」

 驚かずにわたしが顔を上げられたのは、あまりにも自然で、そして優しく触れられたから。人差し指の背で、わたしのサイドの髪の毛を横へ流した山内くんは、柔らかな笑みでこう言った。

「今度、胡都が好きそうな店見つけてくるから、一緒に甘いもの食べに行こ」