「胡都」

 咽び泣くわたしを抱きしめた山内くんは、その震えを鎮めるように、胸元できつく包んでくれた。耳のすぐ側で、彼の声が聞こえてくる。

「なにが、怖いの……?」
「わからないっ」
「俺にできること、ある……?」
「わからないっ」

 横に首を振ると、彼は揺れる溜め息をひとつ吐く。何もしてあげられないことを悔しく思ってくれているのだと、そう感じた。
 落涙(らくるい)は止めどなく。彼はわたしを包み続ける。

「俺が秋宮だったら、すっげえ嬉しいけど」

 波音に泣き声が重なる時間を暫し過ごし、ぴたりとその涙が止まったのは、山内くんがくれた言葉によって。

「うれ、しい……?」

 彼の上着に(うず)めていた顔を上げると、そこには優しい笑顔があった。

「大好きな人が逢いに来てくれるなんて、そんな嬉しいことないじゃんっ。超幸せじゃんっ。しかも二年ぶりくらいの再会だろ?俺だったら飛び跳ねて喜ぶよ」

 秋宮くんが飛び跳ねて喜ぶ姿。そんな姿は全く想像つかず、ぽかんとしていれば。

「胡都はさ、最期のあいつばかりを印象に残し過ぎなんだよ。胡都を大好きだったあいつが、いつまでも胡都を苦しめたいわけないじゃんか」

 と、断言された。確かにわたしが思い返す秋宮くんとのメモリーは、彼が亡くなる当日のことばかりだ。