ザザンと岸に打ち付けられる波音を暫し耳にして、見つけたベンチに腰を下ろす。

「やっば、尻冷たっ」
「冷やっとするね」
「風邪引くなよ、胡都」
「山内くんもね」

 ひとりぼっちで過ごすはずだった時間に好きな人がいる。それだけで、強くなれる。

「明日、秋宮くんのお墓に行くって、みっちゃんから聞いてるでしょ?」

 山内くんにそう聞くと、すぐに「うん」と返ってきた。

「胡都は初めてなんだろ?」
「そう」
「よく行く気になったね、すごいじゃん」

 一生行くことはないと思っていたその場所に行こうと思えたのは、あなたのお陰。

「わたしね、自分は殺人犯なんだってずっと思ってたの」

 白い息と共に、満天の星へ自白した。

「わたしのせいで人ひとりの命がこの世から消えちゃったのに、どうして逮捕されないんだろうって、どうして誰もわたしを咎めないんだろうって、ずっと不思議に思ってた」

 わたしに苦言するのは、鏡の中の自分だけ。彼女はいつも、鋭い目つきでわたしを睨む。

「でもさ、山内くん言ってくれたじゃない?宝石のように笑える胡都なんかに誰も殺せないって、保証するって。なんでかな、あの言葉がすっごい力になってさ」

 だから明日、秋宮くんのお墓へ手を合わせると、そう心に固く決めたのに。

「けど、怖い」

 強くいられる。ついさっきそう思ったのに、わたしはやはり弱いのかもしれない。

「明日秋宮くんに会うのが、怖いの」

 強気になったり弱気になったり。勇気が出たり出なかったり。一歩を出しては引っ込めて、その場に留まる。わたしは一体、何がしたいのだろう。