日付けが変わっているのだから、正確にはもう、今は『明日』だ。それなのにもかかわらず、太陽が昇るまではと直前まで足掻いているわたしは、救いようのない小心者だ。

「山内くんは、先に帰っててっ」

 わたしたちの間を何度だってすり抜けていくのは、真冬の潮風。山内くんもジャケットを羽織っているけれど、寒くないわけがない。

「俺がいたら、迷惑……?」

 手は握ったまま、けれど引っ張ることをやめた山内くんが言う。

「胡都の散歩、隣に俺がいたら迷惑かな」

 まだ断ってもいないのに、彼は昼間の五重の塔の公園で見せた、傷付いた顔をしていた。

「だって、寒いよ」
「うん、寒い」
「だから先に──」

 だから先に帰ってて。

 そう言おうとしたけれど、山内くんが先に行動を起こしたから、言えなくなった。

「だからこうしてた方が、あったかいじゃん」

 冷たくなったふたりの手。それを山内くんは、自身のジャケットのポケットに入れた。

 胡都、手。
 え?
 手ぇ貸して。

 ココアを並んで飲んだあの時のように、近い彼との距離。あの日も寒くて、だけど狭い部屋で身を寄せ合うようにしてくっついていたふたつの手だけは暖かくて。

「山内くん……」

 どうしよう、なんだか泣きそうだ。