全てのお湯が零れ落ちれば、わたしの両手は空になった。何もない、手。結局何も掴めていなかった、手。ぼんやりそこを眺めていると、みっちゃんの声が聞こえてくる。

「山内はまだ、胡都のこと好きそうだけどね」

 そうだったらいいな、それが言えなくて、わたしは耳を傾けるだけ。

「今回の旅行の意図も、この前山内には伝えたの。秋宮のお墓参りに行きたいって胡都から言ってきたって、これは胡都にとってすごい進歩なんだって。だからこの旅行がいい思い出になるように、胡都のこと楽しませてあげてねって。そしたら協力したいって張り切ってたもんっ。きっとまだ胡都に気持ちがあるから、面倒くさがったりしないんだよ」

 それはただ単純に、山内くんがいい人だからからかもしれないよ。

 そう言おうとしてやめたのは、山内くんのことを話すみっちゃんの頬が赤らんでいたから。熱い温泉のせいだってわかってる。けれど気になってしまった。

「みっちゃんは、山内くんのことどう思ってるの?」

 そう聞くと、彼女の目が点になる。

「はあ?どうって、ただの友達でしょ」
「でも根本くんには今回銚子(ここ)に来た理由、話してないんだよね?山内くんだけに教えたんだよね?」
「だって根本は知らないから、胡都の過去のこと」
「そうだけどっ」

 でもなんだか、ふたりの間に流れる空気がこれまでとは違うように感じるんだ。わたしの知らないみっちゃんを、山内くんは知っているんじゃないかって、そんな空気。

「ごめん、なんでもない……」

 けれど漠然でしかない意見をぶつけても困るだろうから、わたしは口を噤んだ。しゅんとすればバレたやきもち。くすっと微笑んだみっちゃんが言う。

「安心して、胡都。わたしが山内を好きになることはないから。愛よりお金だって、前に言ったじゃん」