え、とみっちゃんの声がした。お湯は指の隙間から、ぽたぽた零れて落ちていく。

「わたし、山内くんがいなかったら、きっと今頃まだ剣崎先輩の彼女を無理にやっていたかもしれない。それか酷いことされて、後悔しているかもしれないし。でも山内くんがわたしを追いかけてきてくれたから、必死に訴えかけてくれたから、あの時わたしはノーって言えた」

 そして、今の平穏な日々がある。それなのに。

「山内くんの気持ちが離れちゃったような気がして、寂しいの……」

 今ならば、山内くんの告白に真っ直ぐ素直に頷ける。わたしも好き、大好きなのって、自分の想いも伝えられる。だけど。

「山内くんもわたしに飽きちゃったんだって、そう思ったらすっごく寂しい……」

 何人かに告白されて、何人かと付き合って、そしてその全員にフラれた過去。山内くんにもフラれて終わり、そして彼との次が望めないのならば、やはり脳裏を掠めてしまうのは、秋宮くんの最期の笑みだ。

 ばいばい、胡都。一生俺を想っててよ。

 痛感させられる、呪縛。みっちゃんや山内くんのお陰で(ひら)けた道も、すぐに閉ざされ(いばら)が生える。進みたいのに怖くて進めず、わたしは後退るだけ。