「うっ……」

 もう大丈夫だと思っていたはずなのに、明日秋宮くんのお墓の前で手を合わせる自分を想像したら、気持ちが悪くなった。

 この期に及んで、今頃になって。たったの一本、線香だってあげに行かなかったくせに。

 鏡を見ているわけではないのに、自分が自分を(くさ)す声が聞こえてくる。

 今更どんな顔して彼に会うの?
 これでなかったことにするつもり?

「やめて、やめて、やめてっ」

 あなたのせいだよ、胡都。

「やめてっ!」

 耳を塞いでしゃがみ込み、はっはと浅い呼吸を繰り返す。冬の空気は冷たくて、気管も肺も凍てつけば、生きるために息を吸っているのか、それとも自分を苦しめるために吸っているのか、わからなくなった。

「胡都っ!」

 網膜(もうまく)に焼き付いたままの、あの日の映像。誰かが再生ボタンを押したように、それがゆっくり動き出すと。

「どうしたんだよ、大丈夫!?」

 間近で山内くんの声が聞こえてきて、ぷつっとその動画は切れた。

「胡都……?」
「あ、秋宮くん」

 名前を言い間違えたことにすら、今のわたしは気付かない。