「ねえねえそこのふたり〜。旅行いこ〜」

 休み時間。教室の後方で懐かしい遊びをしている山内くんと根本くんに、みっちゃんが声をかける。わたしはそれを、窓際一番後ろの席から眺めていた。

「ねえふたりとも、聞いてる?今度の週末、旅行いこーよ」

 存在感たっぷりあるブランドもののマフラーをぷらぷら揺らせて、束ねた髪の毛も最近染め直して、異彩を放っているというのにもかかわらず、メンコに夢中な彼等の目には、どうやらその姿が映らないらしい。

「うわ、根本それ反則っ。今息でふーってやったろっ」
「やってねえしっ」
「はい、あと一回で退場なー」
「退場ってなんだよ!」

 みっちゃんを無視に盛り上がるふたり。彼女は首に巻いていた高価なそれを、メンコの上に投げつけた。

「なに!?ここだけ時代違うの!?現代の声はシャットアウト!?」

 そんな彼女の発言に、くすくす笑うクラスメイトたち。真剣勝負の舞台を台無しにされた山内くんと根本くんだけが、不愉快そうだ。

「美智ひでえっ」
「ひどくない!答えなかった山内たちが悪いんじゃん!」
「自分で買ってないものだと、扱いも雑になるんだなー」
「ばっ!ちょっと静かにっ!」

 慌てた様子で山内くんの口に手で蓋をしたみっちゃんは、「ばかばか」と連呼していた。あはは、と笑う山内くん。なんだか以前よりも親しげなふたりの仲に、もやっとするのは胸辺り。