「胡都のせいじゃないよ……」

 その手を包み込むように自分の手を重ねれば、彼女の手は俺でサンド。同じ温もりになっていく。

「はいはいっ。イチャつくのはいいから、あんたたち早く下校しなさいっ」

 ふたりだけの世界へ入る寸前、西条先生が割って入る。

「今度からこういう時は病院行ってよねっ。頭打って意識ない人なんか連れてこまれても、わたしなにもできないから」

 その言葉に「すみません」と、謝るのは胡都。

「だってついこの前、山内くんの家はお姉さんのことがあったばかりだから、また病院から呼び出されたら、親御さんびっくりしちゃうと思って」
「だからって自腹でタクシー乗ったの?優しいわねえ伊吹さん。あとで山内にきっちり請求しなさい」

 はい、と軽く笑って返した胡都は、その顔のままこちらを向いた。

「山内くん歩けそう?」
「あ、うん」
「じゃあ帰ろっか」

 保健室を出てすぐの、がらんとした下駄箱。下校時刻を過ぎた今の今まで付き添ってくれた胡都へ、何て礼を告げようか考えていれば。

「今日ふたりして授業をサボっちゃったことはね、西条先生がツッチー先生に、上手いこと言い訳してくれるって。優しいね」

 と言われ、そのタイミングを見失う。

「そうだね」

 ふふっと微笑む大好きな彼女。きらきら輝くこの真珠を、守り抜きたいと(せつ)に思った。