「だから今日も、先輩の家には行けません!ごめんなさい!」
深々と頭を下げ、何度も謝罪をする彼女の姿に、通行人の数名が首を傾げていた。それにあたふたし出したのは剣崎。おそらく俺の大声が呼び集めた見物人もいるだろうが、今はその全ての人の視線が彼に注がれている。
ちっ!と剣崎が胡都にした舌打ちは聞こえなかった。けれど挙動でわかった。ダンッと地面で腹いせし、ひとりで路地に消え行く彼。俺はそれを見届けると、胡都の元へと向かう術を探した。
「胡都!今歩道橋渡ってそっち行くから!待ってて!」
不思議なもので、ことが終われば声が出た。掠れていることに変わりはないが、足も暫く休ませていたお陰なのか、先ほどよりはずっと軽い。
十メートルほど離れた場所に設置されていた歩道橋を登り、彼女までの道を急ぐ。
「胡都、今行くね!」
この階段を下りれば胡都がいる、やっとノーと言えた、胡都がいる。
階段の上から見下ろした彼女は、ぺたんとその場に尻をつけていた。どれだけ心臓がバクバクだったろう、どれほどの勇気を振り絞ったのだろう。彼女が使った精神力は、俺が今日使った体力よりも多いかもしれない。
胡都、頑張ったね。
そう言いたくて、逸る気持ちと共に段差へ一歩踏み出した。けれどそんな気持ちとは裏腹に、やはり俺の足は限りを尽くしていたようで、その一歩にかかる己の体重に耐えきれなかった。
「山内くん!」
崩れた身で落下中、胡都の声が聞こえてきた。空中に投げ出されているその間は、胡都が無事でよかったと、心から思っていた。
深々と頭を下げ、何度も謝罪をする彼女の姿に、通行人の数名が首を傾げていた。それにあたふたし出したのは剣崎。おそらく俺の大声が呼び集めた見物人もいるだろうが、今はその全ての人の視線が彼に注がれている。
ちっ!と剣崎が胡都にした舌打ちは聞こえなかった。けれど挙動でわかった。ダンッと地面で腹いせし、ひとりで路地に消え行く彼。俺はそれを見届けると、胡都の元へと向かう術を探した。
「胡都!今歩道橋渡ってそっち行くから!待ってて!」
不思議なもので、ことが終われば声が出た。掠れていることに変わりはないが、足も暫く休ませていたお陰なのか、先ほどよりはずっと軽い。
十メートルほど離れた場所に設置されていた歩道橋を登り、彼女までの道を急ぐ。
「胡都、今行くね!」
この階段を下りれば胡都がいる、やっとノーと言えた、胡都がいる。
階段の上から見下ろした彼女は、ぺたんとその場に尻をつけていた。どれだけ心臓がバクバクだったろう、どれほどの勇気を振り絞ったのだろう。彼女が使った精神力は、俺が今日使った体力よりも多いかもしれない。
胡都、頑張ったね。
そう言いたくて、逸る気持ちと共に段差へ一歩踏み出した。けれどそんな気持ちとは裏腹に、やはり俺の足は限りを尽くしていたようで、その一歩にかかる己の体重に耐えきれなかった。
「山内くん!」
崩れた身で落下中、胡都の声が聞こえてきた。空中に投げ出されているその間は、胡都が無事でよかったと、心から思っていた。