そのうちのひとりは、確かにそう呟いていた。高身長で、怖そうな外見ばかりの男子が集まったそのグループの中でも一際目立つ人。トゲトゲした明るい短髪で、何個ものハードな指輪をはめていて。腰からは何故か大量の鍵をぶら下げているから、彼が歩く度にジャラジャラ鳴る。

 彼等の名前は知らないけれど、入学してから今日まで、わたしはそのグループを見かけては方向転換をしたり遠回りをしたりして、ずっと避けてきた。
 このグループの連中は、煙草を吸っていると聞いたことがある。万引きだってしていると、噂で耳にした。喧嘩をしたあとのような妙な傷が顔に付いているところも、遠目だけれど見た。
 地味目なわたしがこの人たちに目をつけられることはないと思うけれど、念のための敬遠はしておきたい。近寄らなければ、関わることもないのだから。

「カフェで甘いもの食べてもいいし、天気がいいから公園で散歩もいいね」

 今後の予定を頭に巡らせている山内くんの耳には、今の低い声が聞こえなかったようで、のほほんと階段を下っている。一方の先輩たちは歩みを止め、山内くんかわたしかのどちらかを、目で追っているようにも思えた。

 先を越されたとはなんだろう。先輩たちは階段を登っていて、わたしたちは下りているのだから、抜かすも抜かされたもないはずなのに。

 下校の時間帯に、何の部の活動場所にも当てはまらない一年生のフロアまで上がって来ようとしてきた先輩たちの視線は、それから暫く背中へ刺さっているような気がした。