無我夢中で飛び出た教室。胡都の席で彼女のスマートフォンを操作していた時かはわからぬが、俺の鞄はいつの間にやら肩から外れてどこかに行った。

「え、うっそ」

 だから俺は、電車に乗るために必要な金もICカードも持っていなかった。

 ガタンゴトンと、剣崎の街へ向かう車両を改札の外で見送って、クラスへ戻るかいなか一時(いちじ)悩み、全力で走った方が速いだろうとの決断に至る。
 運動部の何にも所属していない非力な足。けれど胡都を想えば、みなぎる力。

「頼む、無事でいてくれっ」

 白い月が浮かぶ空の下、俺はひたすら疾走した。