隣の病室で永眠した姉貴の恋人も、顔に痛々しい傷を負っているというのにかかわらず、安らかな表情だった。瞼は閉じられていたが、通った鼻筋やバランスの良い唇で、彼の美男子さがうかがえた。

「山内くん。わたし、もうそろそろ帰るね」

 家の近所の葬儀屋で、両親が葬式の打ち合わせをしている間、胡都は抜け殻な俺の側にいてくれた。

「山内くんのお母さんたちが戻って来るまでいられなくてごめんね。そろそろわたしの親も、帰って来ちゃうから」

 時刻は夜七時を回ったとこ。電車に乗り、わざわざ俺の家まで足を運んでくれたというのに、俺はそんな胡都に対し、茶のひとつも出していなかった。

「あ、じゃあ駅まで……」
「大丈夫。ひとりで帰れるよ」
「でも」
「大丈夫」

 玄関でひとり、靴を履く胡都の背中をぼんやり眺める。週末金曜日の放課後を終始暗い気分で過ごさせてしまって、申し訳なく思っていると。

「じゃあまた来週ね、山内くん。ばいばいっ」

 反転した胡都が微笑んでいたから、俺の抱えている悲しみがひとかけら、消えた気がしたんだ。

「やっぱ駅まで送らせてっ」