でも、だって。わたしは山内くんを好きではないし、会話も思いつかないし、いきなりふたりきりにされても困るし。

 みっちゃんの提案に待ったを入れようにも、すぐ側に山内くんがいるが(ゆえ)、それはできない。ならばどうしようと考えている間に、事はすいすい運んでしまう。

「サンキュ美智(みち)、わりい」
「ぜんぜーん。じゃあねっ」

 みっちゃんと山内くんが手を振れば、わたしを含めた他の三人も、つられて振る。みっつの背中を名残惜しそうに見ていると、横からぬっと顔が出てきた。

「胡都、カラオケ行きたかったよね?ごめん」

 友達から強引にわたしを引き剥がしたくせに、詫びてくる山内くん。眉を曲げ、心配そうな顔の彼はおそらく、わたしのご機嫌をうかがっている。

「だ、大丈夫だよ」
「本当?」
「うん」

 口角を上げて頷くと、彼は「よかった」と微笑んだ。そして、繋がれる手。

「じゃあ、なにして遊ぶ?」
「なんでもいいよ」
「そっか。じゃあ、んーっとそうだなあ」

 うーんと考えながら、廊下をゆっくり進む山内くん。夏休み明けに突如誕生した、わたしたちカップルに注がれる同級生たちの視線が少し気になったが、それよりももっと気にかかったのは、階段を下りている時にすれ違った先輩たちグループの目だ。

「は?先越されたんだけど」