「山内あかりさんのご親族の方ですね、ご案内いたします」

 急かされ、すっ飛んで来たというのにもかかわらず、事務の女性は悠長だった。

 心肺停止だって。
 心配停止だって。

 姉貴の病室へ向かう途中、鼓膜に居座る担任の声が、何度だって俺を苦しめてきたけれど、胡都がその度に「大丈夫だよ」と言ってくれたから、俺はなんとか歩けた気がする。

「こちらです」

 では、と一礼し去った女性に、俺と胡都も頭を下げて、病室の扉に手をかける。

 大丈夫大丈夫。姉貴は絶対に大丈夫。

 そう懇々と自分へ言い聞かせ、その扉をゆっくりスライドすれば、真白な病室が広がった。

「母、さん……」

 視界の端から端までが病室になった時、まず俺が視認したのは、涙と鼻水で顔面ぐしゃぐしゃになった母親だった。

「りょ、稜……」

 丸椅子に座り縮こまり、吐息だけで俺を呼んだ彼女の隣、唇を噛み締める父親が立ち尽くしている。彼は俺の存在を感知しただろうけれど、ベッドへ視線を落としたままだ。

「姉貴……?」

 胡都に支えられながら、ふらりふらりと不安定な足取りで父親の視線の元へ行けば、そこには横たわる姉貴がいた。眉間に大層な傷を負い、生々しい血も顔のそこかしこに付いていて。それなのに、まるで眠っているように穏やかで。

「姉貴、なにやってんのこんなとこで……彼氏とのドライブデートは……?」