後悔先に立たず。そんな古事成語が頭を()ぎるけれど、俺は今からでも頑張りたい。願いが叶うならば、俺はまた、胡都と恋人同士になりたい。そして君からの愛がほしい。

「もし剣崎と胡都が別れたらさ、俺からもう一度、告白していい?」

 情けなく潤んでしまった瞳で胡都を見ると、彼女の瞳が魚の跳ねた水面(みなも)のように揺れていた。

「三度目の正直ってやつ」

 ははっと口角を上げて、笑顔を取り繕って、何てことないよって顔を見せると、胡都がまた数歩、俺へと近付いた。

「山内くん」

 手を伸ばせばもう、届く距離。果てなく感じていた数メートルを、彼女が縮めてくれた。

「わたしも、山内くんに話したいことがあるの」
「話したいこと……?」
「うん」

 胡都が俺に、話したいこと。それは見当もつかなくて、俺等ふたりの関係に善悪どちらの影響を及ぼすのかもわからなくて。

「な、なに」

 ごくりと固唾(かたず)を飲んで、続きを待っていると、腹を括ったような彼女が「あのね」と言った。しかし次の瞬間耳へ届いたのは、彼女の声ではなかった。

「や、山内!ここにいたのか!」

 教室に飛び込んできた担任が、俺の名を早口で叫ぶ。

「ツッチー……」

 胡都とふたりの時間を邪魔されて、俺は落胆。血相を変えた彼に何事かと思ったけれど、対応が雑になってしまう。

「んだよも〜」
「お、落ち着いて聞けよ!」
「いーから早く言ってよ」

 落ち着いてと言う彼の方が、冷静さに欠けているのは明らかだった。肩を使って呼吸をし、目だって血走っていて。

「山内のお姉さんがっ──」

 そこまで言って言い淀み、不穏な空気まで作り出すのだから。

「──お、お姉さんが事故に遭って、心肺停止だって!」