「まだここにいてよ……」

 胡都は出し抜けな俺の発言に、驚いた様子だった。なんでって、そんな顔をしていたから、俺は腑抜けな俺の物語を話し始めた。

「胡都は興味ないかもしれないけどさ、俺が胡都をフったわけを話してもいい?」

 少し黙ったのちに、こくんと頷く彼女に続ける。

「俺ね、本当は胡都と別れたくなかったの。だって胡都がすんごい好きだから。けど胡都が俺の告白にオーケーしたのが、ただノーって言えなかったからって知って、だから胡都を、好きでもない俺から解放してあげるふりをして」
「ふり?」

 胡都の長く伸びた影が、教室に半分ほど戻される。

「ふりってなに、山内くん」

 俺も彼女と同じ歩数歩み寄れば、触れられる距離。だけどこの数メートルが、今の俺等にとってはとてつもなく遠い。

「本当は、俺が解放されたかったんだ……」

 ノーって言えない、やだって言えない。わたし、そういう人なの。拒むのが、怖いの。

 胡都から打ち明けられた時の、鈍器で頭を殴られたような感覚を、今でもはっきりと覚えている。胡都より俺の愛の方が大きいのは知っていた。けれど彼女も俺を徐々に好きになってくれているのだと感じていた。でもそれは、見て()れに過ぎなかった。

「胡都にちっとも愛されてないってわかった途端、心の中めちゃくちゃになって。なんかもう、辛くなって逃げたくなって」

 胡都の過去を聞かされたのが、彼女の自宅ではなく駅のホームだったら、俺は秋宮と同じ末路を辿っていたかもしれない。

「だから自分から胡都を手放したっ。これ以上傷付くのが怖かったからっ」

 でも、でもそれは──

「まじで、大間違いだった……」