「山内、帰らねえの?」

 教室に、西陽がさす放課後。机へうつ伏せ微動だにしない俺の真上から、根本の声が降ってくる。

「まだいいやあ」
「なにしてんだよ」
「考えごと」
「じゃあ俺、先帰るわ」
「ん」

 深くを追求してこなかった根本が廊下に出れば、教室には俺だけが残り、ひとりぼっち。
 漂う静けさ、どこからか香るのは、キンモクセイの匂い。

 微かに開いている窓の外、斜めに傾いた陽がイチョウの黄色を運んでくる。校庭を越えた先にある大きなその木は、胡都と並んで見た、鮮やかな木を思い出す。

「胡都……」

 瞳を閉じて、胡都を想う。

 君の想いは、一体全体どこにあるのだろう。剣崎でもなく、俺でもなく、この世にいる全ての人間が該当しないのならば、結局死んだあいつに、丸ごと掻っ攫われてしまったのだろうか。
 胡都を助けたい、守りたい。けれど意のままに行動できぬ自分にやきもきする。
 もはや自力では持ち上げられなくなってしまった頭を机に落としたまま、俺は途方に暮れていた。