八年もの間、たったひとりへの愛を貫き、見事ゴールテープを切ったふたりには、なんだか脱帽した。

「すげえな、姉貴……」
「なにが?」
「お互い過去の恋愛にトラウマとかなかったの?それかこの八年間で、相手のひとことがトラウマになったりとか」

 トラウマかあ、と顎に手を運んだ姉貴は、少しの時間を空けてから、その手で頬杖をつく。

「なに。あんたの好きな子にトラウマがあるとか?」

 どうして彼女は、こうも鋭いのだろう。

「お、おう」

 と、ぎこちなく返事をすれば、さっぱりとした意見が返ってくる。

「そんなん愛でどうにかなるもんよ」
「え」
「愛でできた傷は、愛で治してあげなさい」

 フローラルな香りの香水をシュッシュとつけて、姉貴は「よし」と席を立つ。

「じゃあ、行ってくんね」
「おい、ちょっと」
「早く行かないと車混んじゃうから、じゃねっ」

 用意してあった鞄を肩にかけ、玄関へ向かう彼女。

「気をつけてなっ」
「うんー」

 そんな短い会話をして、パタンと閉まる玄関扉。俺の頭の中では、姉貴の言葉が反芻(はんすう)された。

 そんなん愛でどうにかなるもんよ。

 秋宮の愛で負った傷。俺はそれを、俺の愛で癒せるのだろうか。