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 ベッドに横たわり、遮光ケースをシーリングライトにかざしてみる。
 薄っすらと、中に入ったカプセルが見えた。
 右手に一つ、左手に一つ。今、僕の手元にはディープブルーが二つある。不思議な気分だ。こうしてみると、見た目が全く同じなのに、効果を及ぼす対象は全く違うなんて。
 古閑さんが学校に来なくなって、一週間が過ぎた。担任の先生の話では、体調を壊して療養中とのことだったけど、直前にあんなことがあったばかりだから、いささか以上に信じられない。とはいえ僕は古賀さんの連絡先を知らないので、確認のしようもなかった。
 思っていたよりも長い間、ディープブルーを預かることになってしまったので、うっかり取り違えないように僕の物には小さな青いシールを貼った。これでいつでも、古閑さんに返すことができる。返す準備は、できている。

「古賀さん、いつ学校に来るのかな」

 一週間という期間は、決して短くない。この一週間で秋の文化祭の出し物は決まったし、席替えもあったし、茶髪君は三回先生に怒鳴られた。
 時間は流れる、季節は移ろう。僕たちの誕生日は、刻一刻と近づいている。
 なぜ古賀さんは、学校に来なくなったのだろうか。友達と喧嘩しただけで、不登校になったりするものなのだろうか。友達がいない僕には、まったく分からない感覚だ。
 顔を合わせ辛いから? 学校に来たら、居場所がなくなっているかもしれないから?
 あるいは――


『あれは、あんたが……あんたのっ……!』


 古賀さんの目を思い出す。これまでだって、決して好意的な目線を向けられていたわけではなかったけれど、あの時の目は、見たことがない程に敵意に満ちていた。
 敵意……いや、怒りだろうか。怒りと、憎しみと、ほんの少しの、寂しさ。そんなものが、まぜこぜになって、まるでマーブルみたいに溶け切らずに凝固して、あの瞳を形作っていたように思う。だとしたら、

「僕のせい、なのか」

 あの時、彼女を止めたから。
 それが気に障ったのだろうか。
 分からない。分からないんだ。自分という存在が、誰かに影響を与えた経験がなさすぎて、何が正しいのか、なにが正解なのか。
 ただ、僕が分かっていることといえば。
 いつの間にか握りしめていた手の中で、遮光ケースがかちゃりと鳴った。

「これは、僕の手元にあるべきものじゃない」

 それだけは、分かるんだ。