式神作りを拒否った分の霊力が見鬼に全振りされた。

選定ノ儀の後でかかってきた、瑛子からの電話。黒之命からの話を受けると言った後に、彼女は続けた。
「しかし瑛子伯母様。私が実家を出るにあたって最大の問題があります。祖母にこれ以上財産を毟り取られるのは、もう耐えられません。母や元輝にまで被害が及ぶかと思うと気が気ではありません」
『え?何?何の話?』
懸念点であるのは本当だ。思った通り何も知らない大伯母に、彼女は全てを話す事にした。
「瑛子伯母様。私は、大お祖母様から譲られたアクセサリーを、母に渡してお金に替えてもらいました。祖母が払えなくなった家賃の支払いと、住めなくなった家を引き払う為です」
『お母様の!?』
瑛子は驚いた声を上げたが、すぐに冷静さを取り戻したようだった。
『…確かに、蹊子があの家に住めなくなった事は後で知ったわ。でも、引き払うお金は自分で何とかしたって…』
「嘘です。大お祖母様が私に遺して下さった物で、母が工面しました。あと祖母は瑛子伯母様の所によく行ってますけど、タクシー代等の諸経費は母に無心しています。お金を出さないと離れにまで押しかけてくるので、私のバイト代を出しています」
電話の向こうで絶句する気配があった。
『…蹊子は、全部年金で賄っていると言っていたけれど』
「いいえ。それも嘘です。今は私が実家住まいでバイト代を出しているからどうにかできていますけど、家を出た後も祖母の見栄に付き合うつもりはありません」
そもそも現在だって付き合う事ではないのだが、彼女はあえてこのような物言いをした。
「でも、このままですと母がお金を無心されるばかりです。元輝にも害が及びます。瑛子伯母様から祖母を止めて欲しいです。瑛子伯母様からでないと、祖母は聞かないので」
『…貴方達を信じない訳ではないけれど、正頼に一度確かめさせるわ』
一方的な言い分だけを信じるのは、そう。フェアじゃない。瑛子が言う事は尤もだと思ったので、彼女は「それは勿論構いません」と、大伯母には見えないながらも頷いた。
瑛子は、大きく息をついた。
『ただ、これだけは言わせて。妹の事なのに、今まで気付かなくてごめんなさい。李子ちゃんにもそう伝えてちょうだい。蹊子の事で一番苦労しているのは、あの子だから』
「ありがとうございます。きちんと伝えます」
このやり取りも、彼女が母と弟に共有した事柄に入る。
「瑛子伯母ちゃんに言っちゃったの!?」
「そりゃ言うよ。瑛子伯母様にも話した事じゃないけど、家を出るってのにこれ以上祖母さんの見栄に付き合う必要は無いからね。家を出てなくても付き合う必要なんて無いけどさ。まあ純粋にお母さんと元輝が心配なのは勿論あるけど」
彼女は半眼で母を見据えた。
「そもそも『お金を出さなかったら怒られる』だの『娘のお金を持ち出した事がわかったら怒られる』だの言って、一連の問題に私まで巻き込んで色々背負わせていたのは誰?」
「ごめんなさい…」
「お姉ちゃん。俺からもごめん。俺、何も知らなかった…」
元輝は蹊子によるお金の無心については、李子が彼女と連携した事により、まるで知る余地が無かった。顔色を一層青白くして詫びる弟に、彼女は「元輝が謝る事じゃないよ」となるべく優しく言った。
「元輝にそれで変な心労がかかって、体調がますます悪くなるといけないと思ったからね。お母さんと私であえて知らせないようにしていただけさ。責任を感じるなってのは難しいだろうけど、元輝が責任を感じる事じゃないよ」
彼女は言い切り、母と弟に向き直る。
「瑛子伯母様が正頼を動かすし、何より黒之命様側もうちの事情を色々調べるだろうからね。台所事情も確実に把握するだろうよ。どっちも力になってくれると思うよ。権威に弱い祖母さんの事だから、黒之命様と瑛子伯母様の前でこれまでの嘘を暴露すればおとなしくなると思う。主砲は私がやるつもりだが、元輝。当日に動けるなら申し訳ないけど援護射撃を頼みたい」
「勿論だよ。お姉ちゃん」
李子が「お母さんが頼りにならなくてごめんね」と言ったが、姉弟で揃って「謝る事じゃないよ」とフォローした。
実を言うとこのようにして、水面下で打ち合わせがされていたのだ。