式神作りを拒否った分の霊力が見鬼に全振りされた。

「霊力の波長が君のものだね。これは、君が作ったのかい?」
場は変わって応接間。お茶の準備に動き回る正頼と共にすいすいと飛び交うシルキー隊。千代紙の人形達に、それは微笑ましいものを見る目を向けながら、黒之命は彼女に優しく問いかけた。向かいに座する彼女は「はい」と答える。
「『シルキー』と呼んでいます。ヨーロッパの民話に登場する、家事をしてくれる妖精をモチーフにしています」
「愛らしい上に、働き者のようだね」
「そうなんですの!もううちの孫娘と来たら、自分で動こうとしないでこんな物ばかり作ってお恥ずかしい!」
問われてもいないのに捲し立てる蹊子に彼女は「いやいちいち貶さないと気が済まんのかい。あと私は自分でもきちんと家事を覚えた上でシルキー隊を作ったからな?」と、余程いつもの調子で返したかったが、何せ状況が状況である。これまた我慢する事にした。視界の端では、李子と元輝が蹊子の態度にげんなりとした様子で互いに目配せをし合う様子が見えた。
「いや。陰陽連本部で見せてくれたように、素晴らしい才能だよ。――本題に入ろうか。御当主」
彼女を褒めた黒之命は、瑛子に向き直った。蹊子も「陰陽連本部で見せたって何の事?」と訝しげであったが、流石に静かになる。
「通達した通り、卯上の姪孫こそが探し続けていた僕の主だとわかった。正式に『主と刀』になるには、婚姻関係を結ぶ必要がある。彼女を主にすると同時に、僕の伴侶として迎えたい」
「もうこの度は本当に、こんな出来の悪い孫娘に勿体ないお話をありがとうございます!」
誰よりも早く返したのは蹊子だった。上機嫌の笑顔で彼女を見上げる。
「勿論お受けするでしょ?これから何処に住む事になるの?引っ越しはいつ?」
「いや。何処に行こうと祖母さんは絶対に連れて行かないからな?」
「え?」
蹊子は文字通り固まった。彼女は「『え?』じゃないよ『え?』じゃ」と呆れつつ、瞬きの一つもしないで祖母を見る。
「祖母さんの事だから、私が選ばれた即ち直系の血族である自分も相応の扱いをしてもらえると思ったんだろうけど。祖母さんは私と元輝の母親をずっと無能呼ばわりして蔑ろにしてきた。私の財産をずっと毟り取り続けてきた。そんな相手を大切にする理由があると思う?」
「祖母ちゃんはわからないだろうから俺からも言うけどさ。曾祖母さんも曾祖父さんも、霊力を持たない祖母ちゃんを大事に育ててくれただろ?だけど、祖母ちゃんは母ちゃんをそう育てなかったじゃないか。曾祖母さんと曾祖父さんの何を見てきたんだって話だよ」
加勢したのは元輝だった。実は予め姉に「主砲は私がやるから援護射撃よろしく」と言われていたのだ。元輝は快諾した。
「もう一つ。今だから言うけど、祖母さんはいつも瑛子伯母様の所に行ったりする為のお金をお母さんに無心していたよね?あれ、出していたのは私ね。だからさっき財産を毟り取られてるって言ったの」
「蹊子。貴方、いつも私に気前が良かったけれど、あれは全部この子達の犠牲があっての事だったのね」
「瑛子伯母様にも、もう全部言ってるから」
あからさまに顔色を変える祖母に、彼女は肩をそびやかすような仕種を見せた。