賀茂(かも)さん。今日もお願いね」
「はい。相馬さんも、本日もよろしくお願い致します」
ディスプレイに映し出された数多の写真。上司である相馬沙羅(そうまさら)に一礼した彼女はディスプレイの左上の写真から展開し、目を凝らす。
「どう?梅から竹の生徒が実習に行く候補なんだけど」
彼女は『実習候補地。想定クラスは梅から竹』という写真のキャプションに目をやりながら頷く。
「先生達による改めての確認が必要とは思いますが、見たての通り、下級の妖魔しかいないようです。潜伏しているのは、このポイントです」
彼女は傍らのタブレット端末にペンを走らせる。簡略化した地図を描き、各所にチェックを付けていく。
「写真から候補地の大体の地形は把握できました。正確な地図との照合があるでしょうけど、おおよその場所を記載して、この写真と紐づけておきます」
言いながら、彼女は写真のIDと同じ名称をタブレット端末の画像に付け、写真とセットにして保存する。相馬は感心したように溜め息をついた。
「本当に、凄い千里眼よね。写真から現地の妖魔どころか地図まで把握できるなんて、聞いた事もないわ」
「まあ式神作りをしなかった分の霊力が視力だとかに振り向けられたんじゃないかって話ですけど。かと言って、他の皆も私と同じようにしたらそうなるとは限りませんが」
陰陽師達は、その術者が属する家や一族によって多少の差異はあれど、大体が5歳で式神召喚の儀式を行う。陰陽師達の間では式神作りと称されているが、実際は『召喚』に近い。自分の霊力の結晶にして、妖魔との戦いの相棒となる存在を呼び出すのだ。同時に、顕現した式神の姿によって術者の霊力の器が測られる。例えば最上級の式神は人間の姿だ。それも、見目が良ければ良い程に霊力が高いと見なされる。当然ながら白峰学園のクラス分けも、勿論実技試験がある事は前提だが、式神の姿も判断基準となる。つまり陰陽師達にとって、式神とはステータスなのだ。
しかし陰陽師としては異例の事に、その式神を彼女は作っていなかった。正確に言うと、5歳の時分に儀式を拒否した。
詳細を語るには、時間を遡る必要がある。