「陰陽ビーム!!」
そこは「急急如律令」じゃないのか思ったと、居合わせた生徒達・教員達は後に語る。
声と共に夜闇に閃いた数多の光の槍が、妖魔達を串刺しにした。断末魔すら上げず、全ての妖魔が瘴気もろとも霧散する。落ちてきた人影の丁度真下に透明な箱のような結界が展開され、トランポリンを思わせる柔軟さで人影を受け止めた。人影は結界の上を転がるようにして、しかし無事に着地する。体勢を立て直した人影は顔を上げた。10代後半の少女だった。
「あー危なかった!大丈夫ですか!?」
「え…ええ…」
その声で、教員達は各々の役目を思い出したようだった。パニックに陥りかけていた生徒達に声をかけ、点呼と怪我人の確認を行う。その様子を見ながら彼女は「ってあれ?」と怪訝そうな顔になる。
「その制服…白峰学園ですか?」
「え?貴方、うちの生徒じゃないの?」
白峰学園とは、陰陽師達が陰陽道を習得する学び舎だ。普通の学校に擬態こそしているが、教員・生徒は全員が陰陽師である。彼女は「ビーム!!」という言葉を使ったが、妖魔を滅した力は明らかに霊力によるものだと、教員達は流石に気付いていた。つまり彼女は同類であるはずだが、部外者のような口をきく。問われた彼女はあっけらかんと返した。
「ただの公立の女子高です。あ。学生証を見せた方がいいですか?」
「いや。いいから」
荷物を探ろうとした彼女だが、身分証明までする必要は無いと言われて手を引っ込めた。駆け回る教員達とその式神の合間をかいくぐるように、彼女は「んん~?」と目を凝らす。
「…皆の制服に梅の紋章がありますね。もしかして、梅クラスの実習か何かですか?」
「え、ええ。その通りよ」
白峰学園では、生徒は全員が霊力のレベルによって上から『松・竹・梅』とクラスが大別される。制服には、霊力がある者でなければ認識できないクラスの紋章が刻まれるので、陰陽師なら一目見ればクラスを判別できる仕組みだ。
彼女は「あちゃー」と申し訳なさそうな顔になった。
「中級以上の妖魔もいるのがわかったから思わず来ちゃいましたけど、カリキュラムの1つでした?」
「いいえ。最下級の妖魔の掃討のはずだったのだけれど、中級がいると私達も把握していなくて…。事故になる所だったわ。って、貴方は中級がいるとわかったの?」
妖魔は教員達すら察知できない隠れ方をしていたのだが、どう見ても学生の彼女はその存在を認識していたと言う。彼女は何の事も無さそうに答えた。
「ちょっと離れた場所にいましたけど、見えましたので」
「…どうやって来たの?落ちてきたように見えたけれど」
「こう、弾力がある結界を足場にして自分を『射出』しました」
先程のトランポリンのような結界を使ったのだろうと、想像は容易にできた。しかし、疑問点は他にもあった。
「…この近辺には、一般人が入れないように結界を張っておいたはずなのだけれど」
「構成は解読できましたので、飛んでくる時に一部をほどいて入りました。あ。きちんと結び直してます」
刹那と言っていい時間の中で全てをやってのけた事に絶句した。
彼女はマイペースに辺りを見回し、安堵したように視線を戻す。
「先生達の確認が必要とは思いますけど、妖魔はあれで全部みたいです。…瘴気だとかで毒された生徒もいないようですね。今回の事は、私からも上に報告しておきますね」
彼女は「私は失礼しますね」と踵を返しかけたが、慌てて「待って!」と呼び止める。
「貴方は何処の子!?」
「陰陽連のデータベースで、『卯上』と探してみて下さい。それで多分わかると思います」
そこは「急急如律令」じゃないのか思ったと、居合わせた生徒達・教員達は後に語る。
声と共に夜闇に閃いた数多の光の槍が、妖魔達を串刺しにした。断末魔すら上げず、全ての妖魔が瘴気もろとも霧散する。落ちてきた人影の丁度真下に透明な箱のような結界が展開され、トランポリンを思わせる柔軟さで人影を受け止めた。人影は結界の上を転がるようにして、しかし無事に着地する。体勢を立て直した人影は顔を上げた。10代後半の少女だった。
「あー危なかった!大丈夫ですか!?」
「え…ええ…」
その声で、教員達は各々の役目を思い出したようだった。パニックに陥りかけていた生徒達に声をかけ、点呼と怪我人の確認を行う。その様子を見ながら彼女は「ってあれ?」と怪訝そうな顔になる。
「その制服…白峰学園ですか?」
「え?貴方、うちの生徒じゃないの?」
白峰学園とは、陰陽師達が陰陽道を習得する学び舎だ。普通の学校に擬態こそしているが、教員・生徒は全員が陰陽師である。彼女は「ビーム!!」という言葉を使ったが、妖魔を滅した力は明らかに霊力によるものだと、教員達は流石に気付いていた。つまり彼女は同類であるはずだが、部外者のような口をきく。問われた彼女はあっけらかんと返した。
「ただの公立の女子高です。あ。学生証を見せた方がいいですか?」
「いや。いいから」
荷物を探ろうとした彼女だが、身分証明までする必要は無いと言われて手を引っ込めた。駆け回る教員達とその式神の合間をかいくぐるように、彼女は「んん~?」と目を凝らす。
「…皆の制服に梅の紋章がありますね。もしかして、梅クラスの実習か何かですか?」
「え、ええ。その通りよ」
白峰学園では、生徒は全員が霊力のレベルによって上から『松・竹・梅』とクラスが大別される。制服には、霊力がある者でなければ認識できないクラスの紋章が刻まれるので、陰陽師なら一目見ればクラスを判別できる仕組みだ。
彼女は「あちゃー」と申し訳なさそうな顔になった。
「中級以上の妖魔もいるのがわかったから思わず来ちゃいましたけど、カリキュラムの1つでした?」
「いいえ。最下級の妖魔の掃討のはずだったのだけれど、中級がいると私達も把握していなくて…。事故になる所だったわ。って、貴方は中級がいるとわかったの?」
妖魔は教員達すら察知できない隠れ方をしていたのだが、どう見ても学生の彼女はその存在を認識していたと言う。彼女は何の事も無さそうに答えた。
「ちょっと離れた場所にいましたけど、見えましたので」
「…どうやって来たの?落ちてきたように見えたけれど」
「こう、弾力がある結界を足場にして自分を『射出』しました」
先程のトランポリンのような結界を使ったのだろうと、想像は容易にできた。しかし、疑問点は他にもあった。
「…この近辺には、一般人が入れないように結界を張っておいたはずなのだけれど」
「構成は解読できましたので、飛んでくる時に一部をほどいて入りました。あ。きちんと結び直してます」
刹那と言っていい時間の中で全てをやってのけた事に絶句した。
彼女はマイペースに辺りを見回し、安堵したように視線を戻す。
「先生達の確認が必要とは思いますけど、妖魔はあれで全部みたいです。…瘴気だとかで毒された生徒もいないようですね。今回の事は、私からも上に報告しておきますね」
彼女は「私は失礼しますね」と踵を返しかけたが、慌てて「待って!」と呼び止める。
「貴方は何処の子!?」
「陰陽連のデータベースで、『卯上』と探してみて下さい。それで多分わかると思います」